大判例

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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)13638号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕本件家屋がとも訴外石田浦二の所有であり、その敷地は同人が訴外天明元重より賃借していたこと、右浦二は昭和三九年五月三〇日死亡し、原告主張のとおり被告ほか四名の相続人が相続したこと、及び本件家屋には浦二の存命中より被告が同居していたことは当事者間に争いがなく、……によれば、浦二は昭和三九年二月一七日、本件家屋及びその敷地の借地権を他に売却し、その売却代金をもつて、前記相続人間において法定相続分に応じて相続する旨及び遺言執行者を本件訴訟の原告である石井麻佐雄と指定する旨の自筆遺言者を作成したうえ、その保管を浦二の二女である本田歌子に託し、原告は、浦二の死亡後、右歌子より本件遺言者を手交され、遺言執行者となることを承諾したことを認めることができ、本件遺言書につき原告主張のとおりの検認手続が履まれたことは当事者間に争いがない。<中略>

第五の抗弁について。

被告のいう占有使用権が何を意味するかは、若干明瞭を欠くきらいがあるが、本件の場合、これを善解すれば居住を目的とする使用貸借上の権利を主張するものと解される。

ところで、被告及びその妻子が本件遺言書の作成前より、本件家屋に遺言者浦二らと同居していたことは当事者間に争いがないところ……によれば、浦二の二女本田歌子、浦二の番頭深沢賢一は、いずれも本件家屋と同一敷地内にある浦二所有の別建物(二戸)に浦二より許されて無償で居住している事実を認めることができ、これと対比してみれば、被告の本件家屋の居住関係は、浦二夫婦との同居関係であつたとはいえ、それは長男たるの立場より、他の子女と異り、親と居をともにしてきたに止まるのであるから、その実質は右本田歌子らと同じく居住を目的とする使用貸借の範疇に属するものと解するのが相当である。とすれば、被告は既得権として本件家屋につき使用貸借上の権利を有するものというべきであるから、被告の承諾のない限り、遺言によつてもこの既得権を故なく侵害することではきない。なるほど、原告のいうように、被告居住のままでは本件家屋を他に高価に売却処分することはできず、従つて、かくては相続人らに対する配分額も寡少となることを免れないが、さればといつて、それだけの理由のみで、遺言執行者たる原告が本件遺言の執行にあたり、被告の既得権たる使用借権を無視して、被告に対して本件家屋の明渡を求めることは許されない。もつとも被告の本件家屋の占有使用関係が使用貸借関係に止まり、しかも期間の定めのない限り、遺言執行者たる原告において、その管理処分権に基づき、被告に対し右使用貸借の解約告知をなしうる権限を有することは否定できないが、本件の場合原告は被告に対し右使用貸借の解約告知をしていないのみならず、仮に解約告知をするとしても、前記本田歌子らとの均衡上、被告の本件家屋の使用借権はなお相当期間存続を許さるべき性質のものと解するのを至当とするから、いずれにしても原告の被告に対する本件家屋の明渡請求は許されないことに帰する。(古山宏 中田四郎 宇佐見隆男)

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